桜だより

 三月二十三日 わたしの名前は、さくらという。かん字だと桜という字。お花の桜だ。春生まれだから?とお母さんにきいたら、たとえ秋だって桜にしたわよと笑った。お母さんのアコガレのお姉さんの名前だったんだって。そのお姉さんは、おじちゃんのおヨメさんだったのとお母さんはおしえてくれた。おじちゃんの名前は、けい。せがたかくて、あたまがよくって、かっこよくて、めがねをかけている。とってもやさしい。桜の花が大好きで、春にはいつも桜をおいかけて、日本ゼンコクをたびしているんだって。お母さんは、今でもねえさんにクビッタケなのね、っておじちゃんをからかっているみたい。クビッタケってなんだろ? でもね、わたししってるよ。お母さんっておじちゃん大好きだよね。わたしのかぞくは、お父さんとお母さん、わたしとおとうと。おとうとはね、あきらっていうの。今五さい。ちょっとなまいきだけどね、かわいいところもあるんだよ。きょうはわたしのたんじょう日。お母さんは大好きないちごをたくさんのせた、おいしいケーキを作ってくれたし、お父さんはすてきなワンピースをくれた。ピアノのはっぴょうかいにきていきたいな。あきらはね、ようちえんでおりがみのおりかたをおそわったんだって。がんばっておってくれたの。おじちゃんは日記をくれた。日記っていうのは、その日あったできごとをかくノートなんだって。まいにちかかなくてもいいけど、かいておくとたのしいよっておしえてくれた。きょうはこれでおしまい。

 三月二十四日 日記にね、名前をつけたいっておじちゃんにいったの。そしたら、ほんのちょっと考えて、いいねっていってくれたんだ。でもいい名前が思いつかなくてこまってたら、さくらだよりはどうかなっていってくれた。おねだりしたら、ふでペンでさくらだよりってかいてくれたの。おじちゃん、大好き。お父さんも大好きだけど、大きくなったらおじちゃんのおヨメさんになるの。お父さんはお母さんがいるもん、いいよね。

 三月二十五日 きょうは、どうきゅう生だったみきちゃんとつばきちゃんがおうちにあそびにきてくれた。四月から、おなじクラスじゃなくなっちゃうのかなぁ。おなじクラスだったらとってもうれしいな。

 三月二十六日 おじちゃんがまたおでかけしちゃうってきいたから、お父さんとお母さんに、おじちゃんといっしょに桜をみにいきたいっていったら、ダメっていわれちゃった。わたしが子どもだからなのかな。おじちゃんにめいわくをかけちゃうでしょっておかあさんはいうけど、おとなしくしてるよ。いい子にしてるからつれていってっていったんだけど、やっぱりダメだって。どうしてかな。

 三月二十七日 桜をみに、いっしょにつれてって、っておじちゃんにせがんだの。でもおじちゃんはちょっとさみしそうにわらってごめんねってあたまをなでてくれた。らい年はつれていってくれるかなぁ。

 三月二十八日 ジュレイっていうのは木がなんさいかってことなんだって。お父さんがおしえてくれた。でもね。学校のとなりの川にある桜なみきのジュレイはってきいたら答えてくれないの。いくつなのかな。おじちゃんがかえってきたら、こたえてくれるかな?

 三月二十九日 きょうは、ねむいから、おしまい。

 三月三十日 みきちゃんとなかよしのにれちゃんが、お父さんのおシゴトのツゴウでテンコウすることになったんだって。とってもさびしいけど、てがみをかくねっていったらよろこんでくれたっていってた。わたしのお父さんはそういうのがないといいな。そういえば、つばきちゃんがネミミにミミズのだいニュースよっていったからそれなに?ってきいたのね。そしたら、びっくりしちゃうニュースのことなんだって。おじちゃんは知ってる?っておしえてあげたら、となりでお父さんとお母さんがおなかをおさえて笑いはじめたので、わたしはこれがネミミにミミズなニュースなのかなっておもった。そしたらおじちゃんは、それはねている耳に水をかけられたらびっくりしちゃうから、それだけおどろいちゃうニュースってことで、ネミミにミズっていうんだよっておしえてくれた。そうだよね。ねているミミにミミズのせられちゃったらきもちわるいよね。

 三月三十一日 春休みもはんぶんおわっちゃった。しんがっきのクラスがちょっと心パイでドキドキだけど、たのしみ。

 四月一日 きょうはね、エイプリル・フールっていうんだって。エイプリル・フールは四月のおばかさんっていみだよっておじちゃんがおしえてくれた。きょうはおうちからそんなにとおくないところでも桜が咲いてる。いっしょにつれていってくれないかなぁ。

 四月二日 わたしがたくさんおねだりしたからかな。おじちゃんがちかくの桜なみきにつれていってくれた。かぜがちょっとつよくて、さむいからあったかいカッコウをしておいでっていう。おじちゃんと手をつないであるいた。桜はマンカイじゃなかったけど、ひゅーひゅーって風にとばされてとってもきれい。でもおじちゃんはちょっとぼーっとしていたみたい。おつかれさまなのかな?

 四月三日 きょうはリニン式。えっとね。イドウっていって、先生がちがう学校へいっちゃうんだよ。きょねんタンニンしてくれた木村先生がテンキンすることになったんだって。さびしいなぁ。

 四月四日 おじちゃんのおたんじょう日。でもきょうはおうちにこれないんだって。ざんねん。

 四月五日 あしたでこの日記もハンツキだねってお母さんがいってくれた。ハンツキってなにってきいたら、いっか月を半分こしたら十五日だから、それをハンツキっていうんだって。おじちゃんはきょうからまたおでかけ。

 四月六日 ハンツキだよっておじちゃんにでんわをしたの。ちゃんとかいている?っていうから、かいてるよっていったら、いっか月つづいたら、ゴホウビをあげるよってヤクソクしてくれた。たのしみ。

 四月七日 シギョウ式。やったぁ。みきちゃんとつばきちゃんがおなじクラス。タンニンのモリ先生もたのしい先生だからうれしいな。きょうからいっこおねえちゃんなんだもん、がんばる。

 四月八日 入学式。あたらしい一年生がはいってきた。ランドセルがとってもおおきくってね、まるでランドセルに足がはえてちょこちょこってあるいてるみたい。らい年はあきらも一年生だから、あんなふうになるのかな。かわいいかも。

 四月九日 学校がおわってから、みきちゃんとあそんだ。あきらがちょっとしつこくて、タイヘンだった。みきちゃんはわらってあきらのことをかわいいねっていうけど、こういうときはかわいくないっておもう。

 四月十日 お父さんが桜をみにいこうってつれていってくれた。桜なみきがね、とってもきれいだったの。ずーっと前に、お母さんにおしえてもらったんだって。かぜがふくとね、桜の花びらがふわーって、すてき。お父さんが、となりが大きな川で、ドテぞいにずーっとつづいているんだよっておしえてくれた。とってもきれいなんだもん、おじちゃんにもおしえてあげたいなぁ。

 四月十一日 あたらしいさんすうのスギ先生は、とてもわかくてやさしそうな男の人。ちょっとおじちゃんににてるかな。さんすうはにがてだけど、たのしいじゅぎょうになるといいな。

 四月十二日 しゃかいのキネ先生は、ちょっとコワイかおをしてる。お母さんは、キムズカシイおかおよね。っていった。

 四月十三日 おじちゃんがかえってきた。でもまたすぐフクシマケンにいっちゃうんだって。

 四月十四日 おんがくのあずさ先生はとってもきれいなおねえさん先生。かみのけがとってもながくて、まっすぐでね。せがたかくてとてもきれいなの。ときどきめがあうと、にこってわらってくれるんだ。

 四月十五日 お父さんとお母さんと、わたしとあきらの四人でごはんをたべにでかけた。わたしは知らないおみせだったんだけど、おみせにいたあたまの白いおじさんは、お父さんとお母さんをみてにこってわらってね。おひさしぶりですっていってた。それからわたしとあきらをみて、大きくなったねっていうんだけど、いつあったんだろう? ごはんはね、フランスリョウリっていうんだって。おいしかった。いちばんうれしかったのは、ごはんのあとにおじさんがもってきてくれた、おいしいジュースとチョコレートケーキ。口のまわりがチョコレートだらけになって、お母さんに怒られちゃったけどすっごくおいしかった。またたべたいな。

 四月十六日 おじちゃんちにおかあさんとあそびにいったの。そしたらね、おこたでねむってたんだよ。めずらしいね。でもね、ネガエリをうつとき(ってお母さんがいってた)にね。さくらさん、ってきこえたんだよね。わたしじゃないさくらさんなのかな? おかあさんは上からモウフをかけてあげた。

 四月十七日 おじちゃんがおやつをもって、きてくれた。きのううちにきた?ってきくから、お母さんといったよっていったの。そしたらなんだかすこしはずかしそうだった。でもなんでわかったのってきいたらね。モウフをかけてくれたでしょって。すごいな。わたしだったらきっとわからないよ。

 四月十八日 きょうからおじちゃんはフクシマケン。さんすうのスギ先生はじゅぎょうちゅうにときどきヘンなだじゃれをいう。うちのパパだってそんなのはいわないよってヤナギくんがいったら、すごいいきおいでのけぞっていたけど、なにかふんづけちゃったのかな。ケガとかしてないといいな。

 四月十九日 キネ先生、じゅぎょうのときはとってもコワイかおだからちょっとニガテ。でも、ときどきおもしろいおはなしをしてくれる。

 四月二十日 つばきちゃんと、みきちゃんとあそんだ。たのしかった。

 四月二十一日 おんがくのあずさ先生、きょうのおようふくがとてもすてきないろだった。先生にとってもきれいっていったら、うれしそうにわらってくれた。これは桜いろっていうのよ。桜ちゃんとおなじ名前ねっていってくれた。

 四月二十二日 きょうは、おじいちゃんとおばあちゃんがあそびにきてくれた。ひさしぶりにタタミのおへやで、おばあちゃんといっしょのオフトンでねるんだよ。

 四月二十三日 おじちゃんがフクシマケンからかえってきた。オミヤゲだよってね、ハギのツキっていうおかしをくれたの。お母さんのコウブツなんだって。わたしも大好きになった。日記もいっか月だよっていったら、おじちゃんはゴホウビだよって、すてきなペンダントをくれた。シッポウヤキっていうんだって。かわいい桜のえがかいてあるの。わたしはよめなかったんだけど、うしろに「さくら」ってかいてあるんだって。なんだかお母さんはびっくりしてて、いいのってなんどもおじちゃんにきいてた。おじちゃんはいいんだっていってわらってたけど、お母さんは、おじちゃんのタイセツなひとのカタミだから、タイセツにしなさい。ってとてもシンケンなかおでわたしにいった。カタミってなに?っておじちゃんにきいたら、いつもはちゃんとおしえてくれるのに、きょうはおしえてくれない。なんでかな。すごくかわいい。おじちゃんがくれたんだもん、たいせつにするっていったらすごくやさしくわらってくれた。一しゅうかんしたら、ホッカイドウへいくんだって。どんなところなの?ってきいたら、ゆきがたくさんふるところだよっておしえてくれた。そんなにさむくてだいじょうぶなのってゆったら、ゲツマツには桜もさくからねってわらってくれた。おじちゃんはやっぱり桜が大好きみたい。だからわたしのこともだいじにしてくれるのかな。らい年はおじちゃんといっしょに桜をみにいきたいな。

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